『疾風! お? 何しょぼくれた顔して』
『……“お前の所為なんだからな”って、頭叩かれた』
『なんだ、じゃあ言い返せばいいし、殴り返せばいい』
『……出来ないよ。俺弱いし』
『出来るさ! あたしの弟だろう?』
あいつは憎しむべき相手を知っていた。
たった8歳の子供に、その矛先を向ける事なんて弥生にとって眼中になかったのだろう。
こんな頃から、あいつの芯は真っ直ぐ揺るぎなく伸びている事を知る。
俺は心なしか瞳の淵が赤い疾風の瞳を逸らさず見つめる。
「周りも俺の事を認め始めて、時期組長として育てられる中で姉さんがしてきた事を知って。それでも変わらない姉さんの態度に苛立ちすら覚えて」
弥生の顔が脳裏に浮かぶ。
餓鬼みたいな言動したり、餓鬼みたいに笑ったり。
それでもあいつの中になる揺るがない一本のサクラは堂々と咲き誇っている。
疾風は天井を仰いでいた瞳を俺に向けた。
その瞳は何か諦めた色をしていた。
「……親父、倒れたって言ったじゃん」
「ああ」
「これを機に、たぶん俺は組長になる。……本当はもう少し組の勉強して、仕事任せてもらえるようになってきてからって言う話だったんだけど。親父が倒れたなら……事は転がるように進む」
「…………」
「要は世代交代」
諦めたように吐き捨てた言葉には色んな思いが込められていたのだろう。
急な大役に、人間は誰だって肝が凍る。


