「この統合が失敗すれば、母体に及ぼす影響も大きい。これを乗り切るためには、どうしてもお前の力が必要だ。分かってくれるな?」
しばらく悠河は黙って何かを考えていたようだったけれど、
「……はい」
強い覚悟と共にハッキリとそう答えた。
その瞬間、あたしの頭は真っ白になった。
悠河が、フランスへ行ってしまう。
あたしから離れて行ってしまう。
また……
あたしは、一人になる。
「光姫っ!!」
気がついた時には社長室を飛び出し、泣きながら廊下を走っていた。
「どうして……」
分かってる。今回のことは誰も悪くない。誰にも責任はない。
会長が出した結論も、悠河がそれに承諾したことも、全ては有栖川グループを守るためだ。
そしてそれはけっきょく、あたしたちを守ることと同じ。
「分かってる……。分かってるけど……っ」
そんなこと、本当は分かりたくない。
あたしの本心は、会社よりも何よりも、悠河との当たり前の日常を守りたい。
会社なんて、……どうでもいい。
普通に幸せになることは、どうしてこう、難しいんだろう……。

