旦那様は社長 *③巻*


「この統合が失敗すれば、母体に及ぼす影響も大きい。これを乗り切るためには、どうしてもお前の力が必要だ。分かってくれるな?」


しばらく悠河は黙って何かを考えていたようだったけれど、


「……はい」


強い覚悟と共にハッキリとそう答えた。


その瞬間、あたしの頭は真っ白になった。



悠河が、フランスへ行ってしまう。


あたしから離れて行ってしまう。


また……



あたしは、一人になる。



「光姫っ!!」


気がついた時には社長室を飛び出し、泣きながら廊下を走っていた。


「どうして……」


分かってる。今回のことは誰も悪くない。誰にも責任はない。


会長が出した結論も、悠河がそれに承諾したことも、全ては有栖川グループを守るためだ。


そしてそれはけっきょく、あたしたちを守ることと同じ。


「分かってる……。分かってるけど……っ」


そんなこと、本当は分かりたくない。


あたしの本心は、会社よりも何よりも、悠河との当たり前の日常を守りたい。


会社なんて、……どうでもいい。


普通に幸せになることは、どうしてこう、難しいんだろう……。