「すまん、悠河」
突然の展開にあたしと悠河はただ戸惑うしかない。
告げられたのは、あたしの予想を遥かに超えた“事件”だった。
「フランスに……行ってくれないか」
「え、フランスですか?」
「あぁ。三週間後に向こうに飛んでくれ」
三週間後のフランス行き。
最初、あたしも悠河もそれをただの出張だと思っていた。
悠河は結婚する前からも度々海外へ行っていたし、時には一ヶ月近くも向こうへ滞在していたこともある。
出発前、必ず悠河はあたしに『寂しいだろう?』と言って笑っていた。
寂しくない、と言えば嘘になるけれど、悠河は社長であたしはその妻だ。
悠河の立場は誰よりも理解しているつもりだったから、意外にもあたしは冷静でいられた。
だから今回の出張が二週間でも一ヶ月でも、あたしは大丈夫だと高をくくっていた。
それなのに……。
「今回は……ちと長くてな。最低でも一年は、向こうにいてもらうことになると思う」
「一年もですか!?」
「もっとかかる可能性もある」
一年よりも、もっと……?
そんなに長い間、あたしは悠河と離れ離れになってしまうの……?
鼻の奥がツンとしてきて、涙がジワリと溢れそうになる。
あたしはギュッと両手に力を込めて口を強く結び、それが目から零れ落ちないように俯いた。

