いつもなら、きっとあたしはこの甘い感覚に翻弄される時間を選択していたと思う。
悠河と結婚してからのこの短い時間に色々なことがあって、もう二度とこんな時を一緒に過ごせないかもしれないと本気で考えたこともあった。
人生、何が起こるかわからない。
こうして今一緒にいられることが当たり前じゃないんだと気付かされた。
だからこれからは、毎日毎日を大切に過ごしていこう。
悠河と一緒に。
そう、決めたばかりだったんだ。
だけど……
「後で寂しくなっちゃうから、今はあんまりあたしに……触れないで?」
「え……」
今度は悠河がピクリと身体を震わせる番。
あたしは預けていた背中を起こして、ゆっくり悠河の方へと振り返った。
ゆらゆらと不安気に揺れる悠河の瞳には、あたしの姿がハッキリ映っている。
「光姫……」
そっとあたしの頬に伸ばされた悠河の手をギュッと握って、あたしはずっと胸に渦巻いている不安を打ち明けた。
「今日、会長が言ったことだけど……」

