俺の家は渋谷から電車で30分ほどの、昔ながらの商店が立ち並ぶ川崎の下町にある。駅周辺の商店街には中学の同級生の実家もたくさんあり、歩いていると知り合いに会うことも少なくない。
誰かに遭遇したところで、先ほどの渋谷での失態が相手に分かるわけではないのだが、なんとなく人目を避けるように大回りをして家に帰った。
「ただいま」
家でも家族と顔を合わせたくなく、そっと部屋に直行しようと思っていたのに、子供のころからの習慣とは厄介なものだ。こんな最悪な気分のときでも、家に入ると同時に「ただいま」が口から出てしまう。
モヤモヤとした気持ちのまま、靴を揃えるように後ろ向きで脱ぎながら家に上がっていると、あまり聞き慣れない足音がドタドタと走りながらこちらに向かってくるのを感じた。
ふっと振り返ると
「ゆうちゃん、おかえりなさ~い」
と、地方に嫁に行った姉ちゃんの娘、桃香が満面の笑みで俺を出迎えにきてくれていた。

