サクラノコエ

大抵の母親は子供に気付かれないように近くで様子を伺っている。

だから、そういう状況に出くわしても、よほどのことがない限り、ヘタに声を掛けることはあまりしてほしくない。とも、姉ちゃんは言っていた。

その言葉を信じ、とりあえず女の子が目の前を走り抜けていくのを見送ってみる。

すると、姉ちゃんの言うとおり、ちゃんと一つ先の角から母親が出てきて、腰を落として女の子となにやら話をすると、女の子を抱き上げて自転車の後ろに乗せて無事二人で帰って行った。

騒ぎが収まり、ようやく近辺の空気が落ち着いたのを感じホッとして

「よかったな」

と、俺は背後に隠れるように立っている理紗の方を再び振り返り──



背筋が凍った。



理紗は親指をしゃぶり、生気のない目つきでぼうっと立っている。

あきらかに様子がおかしい。