「心配なんかしてねぇよ。それにお前がいなくても、帰る気ねぇし」
 おれを温かく迎えてくれるのは、西小山のぼろアパートだけだ。
胸の内で呟くと、この世でもう一ヶ所だけ、睦也を温かく迎えてくれる場所が浮かんだ。
「婆ちゃんにだけは、久しぶりに会いたいな」
 睦也が上京する際も、祖母だけは賛成してくれ、一緒になって両親を説得してくれた。祖父の葬式で帰ったときも、実家には帰らず、ずっと祖母の家に泊まっていた。そのとき以来、ずっと顔を見せていない。
「お婆さんは、ご両親と一緒に住んでるの?」
「いや、別だよ。実家から車で一時間くらいのとこ」
「じゃ、会いに行こうよ」
 優は立ち止り、睦也を正面から見つめた。クリスマス色に染まる街の灯りに、優の瞳が輝く。悪戯を思いついた小学生のような瞳、こんな嬉しそうな瞳を見るのは、久しぶりだった。