「待てよ」
 優の姿は、店を出てすぐに見つかった。
「来てくれたんだ。まだ飲みたかったんじゃない?」
 その嬉しそうな表情を前に、賢介に追い出された、などと言えるはずもなかった。
「家に帰ってその分飲むからいんだよ」
 それから一度会話は途切れ、人の波を縫うようにして駅までの道を歩いた。
「ねぇ、私のことは気にしないで」
 不意にそう言われ、何のことか分からなかった。
戻ってまだ飲んで来いってことか? 
「お正月、実家に帰ってきなよ」
 そういうことか。
「聞いてたんか」
 優は小さく頷き、口を開いた。
「賢介君が言ってたように、お母さんが心配してるのは、本当だと思うよ」
 そう言った表情は、どこか苦しそうだった。