「はい、おまたせ」
 テーブルの上には豚肉とニンニクの炒め物、油揚げの味噌汁とご飯、そして醤油の小瓶が並べられていた。
「ずいぶんと精がつきそうだな」
「明日ライブでしょ? そう思って」
「いろいろな意味で精がつくよ」
 そう言って一口ほうばり、横に並んだ醤油の小瓶を手にした。
 優は決して料理が上手いとは言えなかった。ファミレスの厨房で働く睦也の方が、包丁の扱いから、細かい塩加減に至るまで上手かった。優自身もそれを承知しているのだろう、睦也が味付けを変えることに対して、文句は言わなかった。
 慎ましい食事を終え、シャワーを浴び、ソファーに座りながらウィスキーのロックを口にしていると、同じくシャワーを浴び終えた優が隣に座った。テレビの中では、最近流行りのお笑い芸人達がその身を削って笑いを取っていた。
おれだってテレビに出たい。だが、こんな身を削るようなことはしたくない。
アーティストなのだから縁遠い話だが、それでも形振り構わぬ姿は、見るに堪えなかった。