「睦也、やっぱりまだ本調子じゃなかったのか?」
 出番を終え、控え室に戻ったところに、賢介が心配そうな面持ちでやってきた。
「いや、体調は問題ないけど……。今日、悪かったか?」
 秀樹との一件以来、プレイなどに関しては、お互いの意見を言えるようになった。雨降って地固まる、だ。
「序盤でちょっとな。後は問題なかったんだけど」
 序盤……、あのときだ。自分で思っていた以上に、動揺していたのか。
「ちょっとな……」
 上手い言い訳も思いつかず、笑って誤魔化そうとすると、賢介は訝しげな表情を浮かべた。
「まぁミスがあった訳でもないしな。喉乾いたし、一杯やるか」
 睦也は胸を撫で下ろすと、賢介に続き客席のバーへと向かった。