「もう、あんなことしないから」
 頭の警告ランプは、諦めたのか、匙を投げたのか、沈黙していた。
「いいのかよ、諦めて」
 優は困ったような笑みを浮かべ、口を開いた。
「睦也、言ったよね。それがお前の夢か、って。一人で睦也の帰りを待っている間、ずっとその言葉が響いてた。早く自立するために読者モデルを始めて、その延長線上で女優を目指して……。それだけだったのかな、夢ではなかったのかな、って。オーディションを受けたのも、どんどん前に進んでいく睦也を見て、焦っていただけなのかな、って。もしそうだったら、う~ん、そうだった。なら睦也を怒らせて、私は何をしてるんだろう、睦也がこのまま戻って来なかったらどうしよう、そんなことばっかり考えて、恐くなっちゃった。だから帰って来てくれたときは、安心した。それで気付いたの、私は睦也がいてくれれば、それでいいって」
 その言葉のどこまでが本心で、どこからが強がりなのか、優自身計りかねているようだった。睦也の目にはそう映った。だがそれに関しての言及はしなかった。まがいなりにも、優の決めた答えなのだから。
 それなのに、胸の辺りに何かが引っ掛かり、息苦しくさせていた。それは風邪のせいではない、それだけははっきりしていた。