「ごめんね、起こしちゃった?」
 その声に、どう答えればいいものか試案し、なるべく平静を装い答えた。
「いや、ボーッとしてただけ」
 自然に聞こえただろうか? 
「バイト、休んだんだ?」
「さすがに行けなかった」
 ぎこちない空気に、息が詰まりそうだ。
「昼休みに電話したの。次は受けません、って」
 睦也は一瞬、何のことを言っているのか分からなかった。そしてそれがオーディションのことだと分かり、頭を高速で回転させた。
 今ならまだ戻れる。今を逃したらきっと取り返しの付かないことになる。
頭の中に警告ランプが灯り、繰り返しそう忠告していた。なぜ? 何のために? それは分からない。本能がそう訴えかけていた。だが、気持ちの整理をするにも、その本能の叫びの意味を理解するにも、時間が少な過ぎた。結局、出てきた言葉は、そっか、それだけだった。