今日はバイトが入っている。十時には出勤しなくてはならない。サボる。その言葉が何度頭を過ぎっただろう。だがそれは許されない。紛いなりにも社会人としての責任がある……、そんな理由ではない。プレゼント代、そしてディナーのコース代が、睦也の首を窒息死寸前までに締め付けていたのだ。熱いシャワーを浴び、少しでもアルコールを抜くしかない。
 頭からシャワーを浴びていると、一つの光景がフラッシュバックした。あの日、ずぶ濡れで帰って来た優の姿だ。睦也は勘違いしていた。オーディションが上手くいかず、悔しさの涙を隠すために濡れて帰って来た訳ではない。睦也への後ろめたさから自分を戒めるために、自ら雨に濡れることを選択したのだ。そうとも知らず、慰めようとしていた睦也は、何と愚かだったのだろう。