家に着いたのは四時を回った頃だった。さっそく賢介から渡されたデモテープを聞いてみると、確かに悪くなかった。ところどころ歌詞の聞き取り辛い場所はあるが、メロディーはハッキリと聞こえる。歌詞カードがあれば問題ないだろう。個々の演奏事態も聞き取れ、賢介の編集の努力が垣間見えた。そして何より、レコーディングでは出せないグルーブ感があった。多少のヨレはあるが、それも味となっている。
 賢介からデモテープを送ることを聞いたときの、あのわだかまりも今は消えていた。あれはいったい何だったのだろう?  ただ単に、面倒なだけだったのかもしれない。睦也はそう結論付け、もう一つの指名を果たすべき立ち上がった。
 パソコンの電源を入れ、ブラウザを開くと、慣れない手付きで『オーディション』と入力し、検索ボタンを押した。検索結果には何十万件というサイトがヒットしていた。その全てをチェックしていたら日が暮れてしまう。目に付いたサイトのみをチェックしていくことにした。