「おれの家もさ、そんな褒められた家庭じゃなかったよ。親父は田舎で小さな工場をやってるんだけど、頑固一徹っていうか、とにかく頭が固くて、自分が世界で一番正しい、って信じてるタイプ。おまけに酒好きでさ、平日でも昼飯食いながら日本酒を飲んでる始末だよ。お袋はいつもそんな親父の陰口を叩いてて、小さい頃から毎日そんな愚痴を聞かされてた。堪ったもんじゃないよな? おれが高校を卒業して、賢介と上京するときなんて、バカみたいな夢を追いかけてるんじゃない、遊びは終わりにしろ、大学に行って工場を継げ、って。人の気持ちなんて一切お構いなし。そのときばかりはお袋も親父の味方で、一緒になって猛反対。終いには、出て行くなら一生戻ってくるな、勘当だ、って」
 こんな話をしたからといって、慰めにならないことは分かっていた。だが、過去を打ち明けてくれた優に対する、睦也が出来る唯一の、誠意の示し方だった。