「それからもお母さんは、不意にいなくなったと思うと、二・三日すると何食わぬ顔で戻ってきたりを繰り返した。それに対してお父さんは何も言わないし、私もいつの間にか慣れちゃった。それまでには時間がかかったし、反抗して無断外泊したり、学校をサボったりもした。でも、誰もそのことを問い詰めなかった。分かってるくせに、何も言ってこないの。小学生の子が、無断で外泊しても何も言ってこないのよ。だから私誓ったの、早く自立して、この家を出て行こう、って。そのために、中学生になるとすぐにモデルの仕事を始めたの。少しずつでも、お金を貯めるために」
 誰もが無償で注がれるはずの、親から子に対する愛情を注がれることなく、幼い時分を過ごした優。その孤独を、睦也には想像さえ出来なかった。何と声をかければいいのかも分からず、ただ虚空を睨みつけることしか出来なかった。
 同情、そんな安い感情ではない。憐れむ、そんな他人事のような感情でもない。それが何だったかは分からない。分かることは、なぜ今まで過去を語ろうとしなかったのか、なぜ極度なまでに人見知りなのか、なぜ今まで異性との深い付き合いを持たなかったのか、いや、持てなかったのか、それだけだ。優は、人を信じることが出来なかったのだ。