平日の電車の中は込みもせず、だからといってがらがらな訳でもない。流れいく景色を眺める老人、幼子を抱いた主婦、クリアファイルを抱えた学生、疲れ果て眠りを貪るサラリーマン……。歳は睦也といくつも変わらないだろう。もしかすれば、年下かもしれない。そう思うと気分は、厚い雲に覆われた秋空よりも、一層暗く沈んでいった。
もし大学に行って、就職をしていれば……。
窓に写る自分の姿と、浅い眠りを貪るサラリーマンを交互に見比べた。赤茶色に染まり、耳を覆う長髪。黒光りする、短く刈られた短髪。ピーコートにジーパン、糊のきいたワイシャツに黒のスーツ。
もし大学に行って、就職していれば……。
十代、二十歳になりたての頃は、こんなことは全く思わなかった。むしろ、サラリーマン何てクソくらいだと思っていた。それなのに、最近は同年代のサラリーマンを見る度に、ありもしない〈もしも〉を重ねるようになっていた。睦也は自分の弱さを隠すように、視線を外の景色へと移した。