軌跡

　翌日バイトに向かうと、奈々が心配そうな面持ちで迎えてくれた。睦也は平然を装いながら、胸の痛みを堪えた。その優しさが、痛かった。
　土曜のわりに、その日は暇だった。夏休みも終わり、みな外出を控えていたのだろう。睦也はその日、よく喋った。誰とでもよかった。バカな話をし、くだらない冗談に笑う。そうすることで、自分は元気なのだ、そう言い聞かせていた。
　家に帰ると、さっそく練習に取り組んだ。それが終われば、ブログを更新した。他のメンバーの記事を確認し、風呂に入り飯を食べる。いつもと変わらぬ作業を終えると、時間は既に十時を回っていた。
　眠りが訪れるまでの時間を埋めるように、ウイスキーのロックを舐めていた。聞こえてくるのはテレビからの笑い声。それは睦也を、一層惨めにさせた。まるで、この世から隔離された世界に、一人残されてしまったかのような惨めさだ。睦也は耐えきれずに、電源を切った。