軌跡

　なぜだ？　そんなものはとっくの昔に捨ててきたはずではないか？　
　いや、違う。睦也はそれを求めてしまったのだ。優と過ごす日々の中で、一般的な幸福を、永遠を求めてしまったのだ。だが、優は睦也の腕から離れ、他の男の腕の中に行こうとしている。その腕に戻ろうとした優を退けたのは、睦也自身だ。それが何を意味するか、分かっていたにもかかわらず……。だがその決心すらも、曖昧なものだった。離れていても、優はいつまでも睦也のことを思っている、ここで突き放しても、優は他の男のもとには行かない、そう思っていた。だが、冷静に考えればそんなはずがない。気持ちは色褪せていく。その輝きを取り戻させるのは、身近な優しさだ。だとすれば、優が他の男の腕の中に飛び込むことは、極めて自然なことだ。そしてそれは、二度と睦也の腕の中には戻らないことを意味する。