翌朝目覚めると、全てが色あせていた。泣き腫らした瞼のせいではない。そう気付いたのは、宛てもなく町を歩き続けているときだった。
 その日、睦也は何時間も歩き続けた。目的があった訳でもなく、ただ歩きたかったからだ。目に着いた角を曲がり、気が向くままに歩いた。途中で自分がどこにいるのか分からなくなっても、どうでもよかった。
 部活動を盛り上げる活気ある掛け声、公園で無邪気に笑う小学生、幼子を抱いた同年代の母親、全てが幸せそうで、虚しかった。そして同じくらい、輝いていた。
 そこにあったのは、一般的に幸福と呼ばれるものだった。それは、夢と代償に捨ててきたもの。夢を叶えるために犠牲にしてきたもの。それなのに、今はそれらが眩しくて仕方がなかった。そして、睦也の心に大きな穴を開けていた。彼、彼女らの笑い声がその穴を通る度に、虚し差が、孤独が、悲しみが、吹き抜けていった。