「睦也、目をつぶって」
「なんだよ急に」
 賢介の要望に、睦也は不審の声を上げた。
「いいから黙って目をつぶれよ」
 太輝に促されるまま、目をつぶった。
「はい、いいぞ」
 目の前にはワインのボトルが置かれていた。ラベルには意味の分からない英語だかフランス語が書かれていた。読み取れたのは、数字で一九八三と書かれている部分のみだった。……一九八三、睦也の生まれた年だ。
「みんなからの誕生日プレゼント。奈々ちゃんのアイデアなんだぞ」
 奈々に素早く視線を走らせると、照れたようにVサインを送ってきた。
「みんな、ありがとう」
 二十年物のワインだ、きっと高かったろう。みんな安給料で、生活費にバンド活動費と、じり貧の生活を送っている。見つけ出すのも一苦労だったはずだ。睦也は緩みかけた涙腺を、慌てて閉めた。
 最高の誕生日だった。この一年間を振り返れば、決して楽な一年ではなかった。劇的な一年といっても、過言ではない。そんな一年も、終わりよければ全てよし。そんなふうに思わせる程に、素晴らしい夜だった。