「おはようございます」
 バイト先の扉を開くと、奈々の明るい声が迎えてくれた。
そうか、今日はもう土曜日か。
「睦也さん、彼女さんとケンカでもしたんですか?」
 急な質問に睦也は戸惑った。別に二日酔いな訳でもないし、そんな深刻そうな顔を、知らぬ間にしていたのだろうか? 
「その服、こないだも着てましたよ」
 ……そういうことか。
優と別れてから、確かに服装に無頓着になっていた。ショップ店員をしていた優は、睦也の服装にも厳しかった。
「寝坊して、うっかりしてただけだよ」
 努めて明るく答えながらも、女性特有の、何気ない観察眼に舌を巻いた。朝からこれ以上の詮索をされては溜まったものではない、逃げるようにして更衣室へと向かった。
 いつものように八時間の労働を終え、裏出入口の扉を開いた。夕焼けに染まる空を見上げながら、ポケットの中から煙草を一本取り出した。