優は、二度とこの部屋に戻ることはない。今の睦也には、それを止める術も、覚悟もなかった。何を失っても、犠牲にしてでも、その手に掴みたかった夢が、今やっと指先に触れているのだ。そんなチャンスは、二度と訪れないかもしれない。ならば、その手を引込めてまで手にしたいもの、そんなものは存在しない。それが、……一生を添い遂げるべき、伴侶であっても。
ゆっくりと部屋の中を見渡す。そこには確かに、二人で過ごした日々の痕跡が残っていた。今にも鍵を開ける音が、扉を開く音が、シャワーが滑らかな肌にぶつかる音が、包丁がまな板を打つ不規則な音が、テレビを見ながら控えめに零れる笑い声が、狭い布団で眠る微かな寝息が……、聞こえてきそうだった。いや、二度と聞くことのない幻聴が、頭の中に響いていた。半年強の思い出がフラッシュバックする。込み上げる思いを抑えようと胸に手をあてたとき、掌に何かが触れた。
ゆっくりと部屋の中を見渡す。そこには確かに、二人で過ごした日々の痕跡が残っていた。今にも鍵を開ける音が、扉を開く音が、シャワーが滑らかな肌にぶつかる音が、包丁がまな板を打つ不規則な音が、テレビを見ながら控えめに零れる笑い声が、狭い布団で眠る微かな寝息が……、聞こえてきそうだった。いや、二度と聞くことのない幻聴が、頭の中に響いていた。半年強の思い出がフラッシュバックする。込み上げる思いを抑えようと胸に手をあてたとき、掌に何かが触れた。


