本番前のリハーサルでは、主にそれぞれの音のバランス、モニタースピーカーのバランス、照明演出の確認などをする。三十分足らずの作業だが、そのライブハウスの鳴りや、それぞれの調子を見るためにも、欠かせない作業なのだ。
「じゃ、おれたちは上のゲーセンで時間潰してるわ」
 そう言って太輝は、秀樹を連れて出て行ってしまった。リハも終わり、本番まではだいぶ時間がある。残った睦也と賢介は、狭い控え室の隅で打ち合わせを始めた。
「じゃ、どんな感じか歌ってみてよ」
 賢介はアコースティックギターを取り出すと、静かにハミングで歌いだした。
「ポップなクリスマスソング、って感じだな。メロの弾み具合もいいし、時季的にもバッチリじゃん」
 睦也の批評を聞いた賢介は、満足そうな笑みを浮かべた。
「じゃ、睦也的にはOKだな?」
「おれ的には全然ありだよ。後は太輝たちの意見だな」
「念のためにデモを作って持って来たんだ。戻ってきたらあいつらにも渡すよ」
 そう言って一枚のMDを渡された。
「さすが賢介、抜かりないな」
 まぁな、得意げな笑みを一瞬浮かべるが、次の瞬間には、真面目な表情に戻されていた。