「優ちゃんの彼氏さんですか? あの子、今日無断欠勤でしたよ。そんなことする子じゃないから、店長も心配してたんですけど……」
 まさか、その予想が外れることを願いながら、クローゼットを勢いよく開いた。受話器の向こうから聞こえてくる声を無視し、終話ボタンを押そうとした。だが指がもつれ、プッ、プッといった機械音が何度か響いた。そして何度目かでやっと、ツーッという無機質な音に変わった。
 睦也は虚空を眺めるように、中身が半分になったクローゼットを眺めた。不思議なことに涙は零れなかった。こんな日が来ることを、どこかで覚悟していたのかもしれない。