「無理、するなよ」
 睦也は奥歯を噛み締め、やっとその一言を発することが出来た。心に巣食った魔物を、必死で抑え。
「無理なんか、してないよ。どうしたの、急に?」
 お前ももう一度夢を追えよ。
 だがその一言を、口にすることは出来なかった。心の中で、睦也と魔物が取っ組み合いをしている。そしてその立場は逆転し、その一言は食い止められていた。何のために? それは睦也にも分からない。ただものすごい勢いで、その一言は抑えつけられていた。
「私、無理なんかしてないよ。睦也が夢に近づいていくの、嬉しいよ」
 その瞳が笑っていたのか、泣いていたのかは分からない。その瞳を正視することが、出来なかったのだから。