「お疲れ。太輝と秀樹は?」
「あいつらが集合時間前に来たことがあるか?」
 それもそうだな、そう言いながら賢介の横に腰を降ろした。
「ほらっ、今日の分」
 手渡されたのは、出演者であることを知らせるステッカーだ。左足の太ももの付け根辺りにそのシールを張り付けていると、賢介は続けた。
「音出し終わってからさ、ちょっと打ち合わせしないか?」
 そのウキウキとした表情から、大体の察しはついた。
「別に時間あるからいいけど、その顔かからすると、新曲でも作ってきたのか?」
「ご明察のとおり」
 そう言ってバックの中から一枚の譜面を取り出した。
「まだメロとコードだけなんだけど、先ずはお前に感想を聞こうと思ってさ」
「じゃ、後で聞かせてもらうよ」
 手渡された譜面を眺めながら、タバコを一本取り出した。
「お疲れ様です。アレッ、太輝さんはまだですか?」
 時間丁度にやって来たのは、秀樹だった。
「あいつが時間とおりに来ると思うか?」
 それもそうですね、睦也の隣に座った秀樹は、さっそく自前のスネアをチューニングし始めた。
 集合時間から遅れること十分、太輝はやって来た。
「いや~、電車が混んでてさ、参ったよ」
「太輝が乗る電車はよく混むんだな」
 睦也が嫌味を言うが、太輝は悪びれた様子もなく続けた。
「あっ、もうこんな時間じゃん。チューニングしなきゃ」
 三人が一斉に、呆れたように溜息を吐いた。こいつはこういう奴だ、今更何を言っても仕方がない。