翌朝目覚めると、既に昼近かった。朝食兼、昼食を済ませ、ハードケースの中からベースを取り出した。古くなった弦を一本ずつ外していき、ヘッド、ネック、ボディと入念に磨く。そして真新しい弦に張り替え、音程を合わせると共に、気持の部分でもチューニングしていく。この作業は、ライブ前のおまじないだ。今日もベストなプレイをするための。
「じゃ、リハがあるから先に行ってるね。出番は八時からだから、それにあわせて来て」
 靴に足を突っ込みながら、首だけ向けて言った。
「うん、わかった。場所は池袋だよね?」
「そう、いつもの場所。じゃ」
 睦也の住む西小山駅から、東急目黒線で目黒駅まで向かい、山手線に乗り換えれば、池袋までは三十分で到着する。駅から歩いて五分のライブハウスに着いたのは、集合時間の五分前だった。分厚い防音扉を開くと、既に賢介の姿があった。