「睦也、まだ起きてるの?」
 寝返りを打ち目を覚ました優の声に、睦也はドキリとした。
「……そうだよね。でも明日は仕事でしょ? 少しでも寝ておいた方がいいよ」
 無理するなよ、睦也はそう口にしようとした。だが口は動いても、それは声にならなかった。どうしても、声には出来なかった。心に巣食った根は、睦也の声帯まで浸食していた。
 不思議そうな視線を向ける優に対して、やっと口に出来たのは、たった一言だけだった。
 おやすみ。