四 神 〜 しじん 〜

「本来なら…私がお前に跪かなければならないのだろうな・・・」


重々しい空気の中、片膝を着いて敬礼した 勾陣 に、君主“ 呼韓邪単于 ”(こかんやぜんう)は言う…


「滅相もない、私はまだ
匈奴人ゆえ・・・」


室内がピリピリしているのが手に取るようにわかる…
突然の 黄竜 誕生は、匈奴にとっても決して手放しで喜べる事ではないのだ。
それも、三十六年も前の出来事を掘り返すなどと…


「・・・確かに…そなたは我が姉に似ている…」


「“北の地”で、若くして亡くなられた憐れなお方だった…」


呼小妃 の弟にあたる君主は、まだ遠い昔の彼女を思い浮かべ、目頭を熱くする

「父亡き今、そなた自信の“ 問題 ”について、今更 罪 に問うたりはしないつもりだ…」


「城に行く気は・・・?」

君主の探るような眼光…。
行けば“ かの国 ”に借りが出来・・・
行かねば“ 立場 ”を危うくする。

“ 巣立ち ”が“ 皇帝 ”となれば弱者である 匈奴 にとっても最強の“ 盾 ”であり“ 鎧 ”となる。

命令などなくとも、勾陣 の答えは一つしかない。


「…それが私の“ 運命 ”ならば・・・」


そう…全ては必然。
運命は動き出している…
二十五年も前から・・・。


勾陣は既に覚悟を決めた。
君主は・・・
満足気でもあり…苦々しくもある複雑な表情で彼を見据え、言い放つ。


「・・・では“ この事 ”によって、国の“ 絆 ”がより深くなる事を、切に願おう…」


 “ふくみ”のある言葉に若干の恩を着せ、君主の瞳が怪しく光った・・・。