翌朝。リュートとティリスは、隣街カルシャンテに向かった。

 街まで徒歩でも三日あれば着く。道はそれほど険しくなく凶暴な魔物も生息していないというから、冒険者の二人には楽な道中と言えた。



 問題なく歩を進め続けて三日目。

 カルシャンテがもう目と鼻の先という森の中で、二人は立ち止まった。

 森の細い小道は、無数に生い茂る枝葉が旅人の小さな障害物になっている。それが途中で突然なくなったのだ。

一瞬、出口かと思ったが、森を抜けるにはまだ早い。正体はすぐわかった。


 視界全体に広がる、青く輝く湖。


 残暑の陽射しを浴びたまばゆい水面と同じように大きなサファイアの瞳をキラキラさせるティリス。

 対照的に、まるでそこだけ雨雲が集まっているかのようにどんよりとした空気をまといながら整った顔をゆがめるリュート。

 ティリスは湖畔へ駆けていき、くるりと振り返る。高い位置で束ねている空色の髪が馬のしっぽのように跳ねた。


「ねぇ、水浴びしていい?」

「夕刻には街に着く。我慢できないのか」


 ぶっきらぼうな言葉に、愛らしいさくらんぼのくちびるを「ぷぅっ」ととがらせる。


「だって……もう二日ガマンしてるんだよ」


 神官は一日一回身を清める禊(みそぎ)をすることが習わしだ。

そうではなくても、うら若い乙女に風呂を三日も我慢させるのは酷というもの。

リュートも承知しているが、本音を言えば、こういう場面はできれば避けて通りたかった。

 難しい顔で腕組みする青年の心中を勝手に解釈してあっけらかんと笑った。


「この森、大した魔物もいないし、リュートが見張ってれば平気でしょー」