ゆうに180㎝を超える長身からかもし出されるのは、どっしりとした落ち着きと隙のなさ。
鎧は身につけていないが、鍛え抜かれた体は間違いなく歴戦の勇士のものだ。

 腰にたずさえた片手半剣は、彼の武勇を讃える勲章のような痕が無数に刻まれて、見るからに年季が入っている。

 そして極めつけは──


 右の眼をふさいでいる大きな斬り傷。


 額から頬にかけて縦断するそれは、きめ細やかな肌にくっきりと浮かんで見える。

 鼻筋の通った繊細な容貌だけを見れば『戦士』という職業がミスマッチに思えるが、
右眼の傷が、彼のただならぬ人生を物語っていた。


“隻眼(せきがん)の自由戦士”


 この通り名を、冒険者やギルドの間で知らぬ者はいない。
 登録してわずか1ヶ月でSSランクに登りつめた伝説の冒険者とは彼のことだ。
 彼に依頼すればどんな厄介事も解決する。

 本人はそんな噂が立っていることなどどこ吹く風……という体(てい)だが。

 この酒場にやってきたときからマスターは初対面にも関わらず、その人目を引く容姿から、青年が噂の戦士だと見抜いていた。

だからこそ、この厄介な仕事を押しつけ……いや、勧めようと思ったのだ。