「あたし、リュートを“魔族”とまちがえて斬りかかっちゃったから……」
たった一度、出逢ったとき、刃を向けたこと……まだ気に病んでいたらしい。
彼女が魔族を敵視するのは当然だ。最愛の父親を殺されたのだから。
それに──
「間違えてないだろう。俺は──」
「ちがうよ。リュートは……『ちがう』」
また言い終わる前に首を振ってさえぎった。
──『ちがう』。
たとえ彼女がそう言っても、この身に流れる血は決して変わらない。
こんなとき、いつも、かたわらのぬくもりを抱きしめることも振りほどくこともできずに立ちつくすしかなかった。
己の抗えぬ血を心の底から歯がゆく思うのも……こんなときだ。
右眼の傷に贖(あがな)いきれない罪と過去を封じこめ、
左眼に癒しきれない悲哀の色をにじませ、
そんな自分によりそう慈愛深き乙女を、ただただ黙って見つめていた。
しばらくの間──多分ごくわずかな時間──そうしていたら、ふと、思い出したように
「ねぇ、リュート」
腕によせていた顔を上げた。
それに対して、先ほどの物思いなど微塵(みじん)も感じさせないポーカーフェイスで返す。
「なんだ」
「あの悪魔……」
真っ直ぐな視線はどこまでも澄んだ優しい──
青。
たった一度、出逢ったとき、刃を向けたこと……まだ気に病んでいたらしい。
彼女が魔族を敵視するのは当然だ。最愛の父親を殺されたのだから。
それに──
「間違えてないだろう。俺は──」
「ちがうよ。リュートは……『ちがう』」
また言い終わる前に首を振ってさえぎった。
──『ちがう』。
たとえ彼女がそう言っても、この身に流れる血は決して変わらない。
こんなとき、いつも、かたわらのぬくもりを抱きしめることも振りほどくこともできずに立ちつくすしかなかった。
己の抗えぬ血を心の底から歯がゆく思うのも……こんなときだ。
右眼の傷に贖(あがな)いきれない罪と過去を封じこめ、
左眼に癒しきれない悲哀の色をにじませ、
そんな自分によりそう慈愛深き乙女を、ただただ黙って見つめていた。
しばらくの間──多分ごくわずかな時間──そうしていたら、ふと、思い出したように
「ねぇ、リュート」
腕によせていた顔を上げた。
それに対して、先ほどの物思いなど微塵(みじん)も感じさせないポーカーフェイスで返す。
「なんだ」
「あの悪魔……」
真っ直ぐな視線はどこまでも澄んだ優しい──
青。


![その信頼は「死ね!」という下種の言葉から始まった[エッセイ]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.778/img/book/genre12.png)