森で見た人々の視線。
そこから発するドス黒い思念がドロドロと熱い鉄のように融け合い、ぶつかり合い、凝り固まって、
ギラリと不気味な鈍い光をちらつかせながら飛んできては標的にからみつき、縛り上げ、めった刺す。
あれは凶器だ。
体は傷つかなくても見えない傷を刻むことは容易(たやす)い。だが、発している者は凶器を振り回していることに気づきもしない。
刃も傷も目には映らないから。
そんな……ドス黒い透明な刃から、この乙女は必死に護りかばおうとしているのだ。
彼を“独り”にしたくはない、と。
(そんなもの俺は慣れているのに……)
心のつぶやきを口に出せば、穢れない瞳を曇らせてしまうだけだ。
それも苦しいほど……わかっていた。
「ごめんね、リュート……」
「何を謝っている」
「初めて逢ったときのこと思い出しちゃった」
言われて、遠くを見つめるようにフッと緑の眼を細くした。
思い出して懐かしむほど二人の出逢いは昔の話ではない。ほんの数ヶ月前のことだ。
けれど、もう何年も経っているかのように感じるのはなぜだろうか。
そこから発するドス黒い思念がドロドロと熱い鉄のように融け合い、ぶつかり合い、凝り固まって、
ギラリと不気味な鈍い光をちらつかせながら飛んできては標的にからみつき、縛り上げ、めった刺す。
あれは凶器だ。
体は傷つかなくても見えない傷を刻むことは容易(たやす)い。だが、発している者は凶器を振り回していることに気づきもしない。
刃も傷も目には映らないから。
そんな……ドス黒い透明な刃から、この乙女は必死に護りかばおうとしているのだ。
彼を“独り”にしたくはない、と。
(そんなもの俺は慣れているのに……)
心のつぶやきを口に出せば、穢れない瞳を曇らせてしまうだけだ。
それも苦しいほど……わかっていた。
「ごめんね、リュート……」
「何を謝っている」
「初めて逢ったときのこと思い出しちゃった」
言われて、遠くを見つめるようにフッと緑の眼を細くした。
思い出して懐かしむほど二人の出逢いは昔の話ではない。ほんの数ヶ月前のことだ。
けれど、もう何年も経っているかのように感じるのはなぜだろうか。


![その信頼は「死ね!」という下種の言葉から始まった[エッセイ]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.777/img/book/genre12.png)