翡翠の悪魔~クライシス・ゾーン~

 思いつめた乙女の様子に、怪訝(けげん)な顔をする。


(悪魔がいる街だ。一人で残るのが怖いのかもしれん。死人も出たというし……)


 などとトンチンカンな考えをめぐらせるあたりは、やはり繊細な乙女心をまだ理解できない19歳。

 ティリスは頬を少しふくらませつつ、筋肉質な片腕に自分の腕をからませた。
ふくらませた頬を二の腕にそっとよせて


「自警団の人の誤解は解けたけど……また、だれかにまちがわれたら……」


 消え入りそうなほど、かすかにささやいた。
いつも元気ハツラツな彼女から発せられたとは信じられないくらいに、弱々しい声。

 その小さな小さなささやきはリュートの耳にはハッキリと届き、胸の奥を優しく震わせた。


 正直な話、また悪魔に間違われたとしても一人のほうがどうとでも切り抜けられる。
ティリス自身もわかっているはずだ。

 それでもついて行こうとする理由は、乙女心をわからないリュートでも想像できた。