「んっ……」


 叶音は、冷たいシーツの感覚で目が覚めた。

 ヒビが入りかけている窓ガラスから隙間風が入る。
 天井も今にも落ちそうな程ボロボロだった。


「大変!」


 時計を見てベッドを降りて髪をしばりエプロンを着けて部屋を出た。


「おはようございます。」


「おはよう、叶音ちゃん。」


 優しく言ってくれたのは、使用人の伊織だった。
 この家の家事を一手にしている。叶音の面倒もよく見てくれるいい人だ。


「配膳して来ます。」


「お願いします。」


 伊織は、叶音に優しく言った。