「山本 姫乃って、いる?」

 戸口の近くにいた男子に語り掛ける、背の高い影。
 男子に指差され、私はびくっとする。

 上領先輩は、真っ直ぐに私を見つめる。


「―…姫乃、いくぞ」


 息が、詰まる。


 ……どうして。

 どうして、先輩が迎えになんか来るのよ…。


「…姫乃」


 不測の事態に石化してなかなか動けない私に、先輩はもう一度呼び掛けた。

 低い、テノールで。

 思わず、びくっとしてしまった。

 先輩は戸口に片手をついて寄り掛かり、真っ直ぐにこちらを見ている。

 そのブルーグレイの意志の強い眼差しに見据えられ、私は抗うことも出来ずに静かに歩きだした。




 彼の方へ。




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