登校ラッシュの雑踏を、彼はするすると足早に交わしてこちらへ歩いてくる。

 まるで、木立の間を摺り抜ける風のようだった。


 実際のところ、校舎2階の窓から眺める姫乃たちには、彼の一際整った容貌をひとつひとつはっきりと見て取れる筈もなかった。

 現に、一点を見詰めて固まってしまった姫乃の隣に立つ瑠璃には、姫乃が何を見付けて頬を染めているのか皆目見当がつかなかったのだから。


「…これが、一目惚れってものなのね…」

 ぼうっと呟く姫乃に、「はあ?」と訝む瑠璃。


 彼の纏う空気に、姫乃は恋に堕ちてしまった。






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