ずっと帰宅部だった山本家の自慢の一人娘は、高等部に入学してから部活動を始めた。


「好きな先輩とおしゃべりでもして遅くなってるんじゃないのか? そこまで姫乃が夢中になる程の美形の『上領先輩』に会ってみたいもんだな」

 部活動を始めてから、姫乃は毎日とても楽しそうだった。

 家族は毎日毎日『柔道部での出来事』と殊更『上領先輩』について、飽きる程聞かされていた。

 非常に仲の良い家族なので、父や兄の立場としては複雑だったが、今の姫乃のきらきらした幸せそうな笑顔が毎日見られるなら、この小さな恋が成就することすら祈ってしまうのだった。



「そうね…それならいいんだけれど。でも最近、その先輩は学校をお休みしているらしいのよ?」

「じゃあ尚更、久々の登校で積もる話でもあるんじゃないのか?」

「…そうね」


「しかし、そうだなぁ…もう少し待って帰らないなら、車で迎えに行ってくるよ。学校まで車なら5分も掛からない」

「うん、そうしましょ。じゃ、サラダ作っちゃうわね」



 そうして、馨は寝室へ着替えに、瑛子はキッチンへと向かった。




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