【長】黎明に輝く女王

「ヴェイニのことはまあほっといてもいいけど、本宮で何かあやしい動きがあったのはホントみたい。おねえちゃんにもそのことを話したから、気をつけてくれていたと思ったんだけど」
「……彼女は普段から人一倍、そういうのには敏感だったと思うよ。それなのに、こうもあっさりいなくなるとなると、相手は相当の手だれか、彼女が油断していたかのどっちかだろう」


 イリヤからみたセリナは、とても弱い存在だと思う。必死に強がってはいる、弱みも見せないようにしている。
 だけど、それはとても脆い。何かあればあっという間に崩れ去るかのごとく。

 彼女から聞いた生い立ち、周囲の接し方などから見ても、それは明らかだ。

 今までは、そんな彼女の口車に乗るかのように、だれしもが反抗してきた。そこに居るヴェイニのように。そしてイリヤ自身も。


 思い返せば、セリナはどんな人に対しても距離を取っている。弟や実の両親に対しても。
 でもそれはおそらく、接し方が分からないのではないか。愛し方を、甘え方知らない。だからいつもあんなそっけない態度になる。

 そう思えば、案外似ているかもしれない。イリヤと、セリナ。
 イリヤ自身も誰も信じることのできない環境で育った。いつ誰が裏切るか分からない。力を持てば、妬まれる。
 そしていつか生きる事を、人と接する事を諦めていた。

 似ているからこそ、イリヤにはセリナの気持ちも少しずつ分かっていた。ただ、本人にそのことを伝えた事はない。
 伝えたところで、何が変わるってこともないと思っていたから。