【長】黎明に輝く女王

「ところで、殿下。先ほど言われてた『ぼくたちが最後』というのは?」
「あ、うん。今日、離宮でおねえちゃんに会ったんだ。そのとき、本宮でしごとするって言ってたんだ。そのあと、本宮でおねえちゃんを見た人はいない」

 つまり、彼らがセリナの最終目撃者となるわけだ。
 イリヤは尋ねた。

「それは何時ぐらい?」
「……くわしい時間は分からないよ。ただ、朝よりは時間がたっていたし、昼ってわけでもなかったから」
「10時過ぎぐらいですよ、殿下と講義が始まった時間から考えると」

 二人で会話している中、割り込んできたのは、先ほどまで重症を負っていたヴェイニ。
 負けじと会話に入っているところが、何となく、子どもっぽい。

「そうだよ! あの時、ヴェイニがおねえちゃんをとめてくれていたら、本宮に行かなかったかもしれないのに」
「あの時止めていたら?」
「さいきん、本宮であやしい雰囲気があるから、あぶないってぼくのことは、とめておいて」
「ふーん。さっきの話からも合わせて考えると、危なくなったらこっそり助けていいイメージでも植え付けようとしてたのか」
「え、そうだったの、ヴェイニ!」

 再び、赤くなり動かなくなるヴェイニ。立ち直ったかのように見えて、案外もろいものだ。

「普段はアイツがあんな性格だから素直になれないけれど、こんなときに格好よく決めて、ポイントアップでも図ろうとしていたのかもしれないけれど、あの性格だからこそ、それを上回る素直さがなくちゃ、見向きもされないと思うけど」

 イリヤが追い打ちをかけるかのように、言い放つ。彼は敵だと判断した者には容赦がない。
 そうしないと、生き残れない環境にいたからだ。