イリヤは迷っていた。このまま一人で調べて行くか、それともこのことをきちんと報告して、捜索隊を結成してもらうべきか。
 一人で調べた方が、自由がきく。気になる事をすぐに調べられ、助けに行くことだってできる。
 捜索隊がいると、自由はあまり利かないだろうが、調べる幅は広がるだろう。いろんなことを突き止めることができる。

 こんなことで悩んでいる暇なんてない!
 それなのに、どうすべきかと酷く悩んでしまうのだ。


「考えても埒があかない。とりあえず、情報収集でもしよっか」

 セリナの執務室を後にして、どこに向かうでもなく、考えながら歩いていると、口論しているような風景が目に映った。
 口論かどうかは分からない。そこに居たのは、必死で何か言っているこの国の皇子と確か……その家庭教師。
 家庭教師の方は、皇子を落ち着かせようと説得しているようにも見えるが、まるで効果がなさそう。

 と、イリヤが二人を観察していたら、皇子の方が彼に気付いたようで、近づいてくる。

「ねえ! 今日、本宮の中でおねえちゃんと会わなかった?」

 皇子、リュカはイリヤの服の裾をぎゅっとつかみ、必死に上を見上げていた。早口で落ちついていない様子からして、彼もセリナが消えたことを聞きつけたのだろうか。

「いや、今日はそもそも会ってないが」
「そうなんだ……。ヴェイニ! やっぱりぼくたちが“最後”だったんだよ。おとうさんたちに、言わないと!!」
「ですから殿下、そういうことは貴方がどうこうしても解決しないので」
「あぁもう! そんなにひねくれているから、おねえちゃんにも嫌われているんだよ、ヴェイニ! ホントはおねえちゃんのこと、じつは名前でよんでいるし、よく見ているの知ってるんだからね。こういうの、スキっていうんでしょ?」