「全く、人騒がせな。一体、どこに居るのだか」

 イリヤが最後にセリナを見たのは、昨晩のこと。今日は見ていない。

「そういえば、昨日、どこかに行っていていたようだけど」

 部屋から脱走し、こっそりと帰ってくる辺りとても不思議だった。
 イリヤにとって、セリナは離れていても、近くにいる存在。この世界に来て、会話することはなくても傍にいた。
 だから、一人でこそこそしていた彼女のことが気になった。自分に隠れて、何をしているのかと。

 この世界で、セリナに一番近い存在だと思っていたのに。


 そう思って、彼女に問いただしたのだ。何をしていたのかと。
 だけど、セリナは曖昧な事しか答えなかった。セリナにとって、自分とは壁のある存在なのか。そう思うと、単純に哀しかった。

 最後に彼女は言った、どうしてそんなに気になるのかと。


 そう言われて初めて気付いた。自分も、なぜそんなに気にかけているのかと。そして、言われて気付く。
 一番近い存在と思っていた事に。それは自分にとっても、またセリナにとっても自分が一番じゃないと嫌だという気持ち。
 
 あぁ、なんて醜い独占欲なのだろう。

 イリヤは気付いてしまった。自分がセリナの一番じゃないと許せない。彼女が隠しごとをするのも許せない。
 なんだかんだ言いながらも、本当の事を伝えてくれると信じていた。
 自分にその気持ちが向いていないと、嫌だ。

 そんなことを自覚した。だけど、この気持ちは、一体なんというのだろうか。

 こんな状態じゃ、セリナと顔を合わせることもできない。しばらく一人で気持ちの整理をしてから、彼女と話をしようと思っていた。
 なのに。セリナは消えてしまったという。