【長】黎明に輝く女王

 今の気持ちを言い表すのならば、適度な緊張といったところか。自信は半々、この先どうなるのかという少しの不安、逃げられるという喜び、そんな様々な気持ちが合わさっていた。

 人気のない屋敷の廊下。改めて見て気付くこともある。厳かな雰囲気のあるところと思っていたが、どこか痛んだ感じのある屋敷。
 由緒正しい屋敷が何年も手入れされずに放置された感じだ。
 おそらく、普段は使っていないのだろう。だからこそこんな場所に監禁していたのか。

「人の気配がないというのは、ある意味怖い……」

 そう、なんか出そうで。幽霊とか、お化けとか。好都合なのか、何なのか。

 キッチンと思わしき場所、朽ち果てたその場所は何年も使っていなさそう。ん、ならご飯ってどこで作っていたのだろうか。まさか、出前?
 それだけじゃない。
 裏の勝手口から逃げようと思っていたのに、気が付いたら応接間のある部屋の前まで来ている。なのに、扉は怪しく半開き、こっそりのぞいてみても、灯りが付いていないため誰もいないのが分かる。

「なんなのよ、ここって」

 不思議、まるでお化け屋敷に閉じ込められていたとでもいうの?
 確かに、これまで価値もなく、存在も蔑ろにされていたあたしを閉じ込めるには持ってこいの場所かも。でも、そう思うと、とても悔しく、腹立たしい。

 そうして、思っていた以上に容易く逃げる事が出来た。
 しかも予想外なことに、堂々と正面玄関を使って。こんなに簡単にいっていいのかしら、ラッキーというか、このこと自体がとても不気味に思えてくる。

 逃げられて嬉しいはずなのに、そんな気持ちが湧き上がってこない。
 冷静になれ、今は気持ちなどは捨てて、先の事を考える。そのことに集中しないと。