【長】黎明に輝く女王

 決行日、夕暮れ。窓から出て行くのは不可能なため、正々堂々と部屋の扉から逃げ出すことになる。
 しかし、やはり異変を勘づかれると、見つかるのも時間の問題。というわけで、できる限り扉を傷めずに出る事が望ましいのだけれども。
 あたしにそんな技術は持ち合わせていない。結局、力づくでドアノブを壊すことしか頭に浮かばなかった。
 まあ、取れた後は、元の場所に嵌めもどしたらいいや。接着剤でもあればいいけど、ないから仕方ない。
 ……うん、大丈夫。遠目からだときっと気付かないだろうし、握るまでは誰も気付かないよ。多分。


 時が迫ってくるたびに、緊張し、煩くなる心を必死に落ちつかせる。
 逃げる為のルートも頭の中に入っている。とりあえず、遠くまで逃げて、現在地を把握すること、それが肝心。
 落ちつく為に深呼吸をしていると、扉が開いた。

「飯だ」

 突然開く扉に心臓は跳びはねた。跳び過ぎて、止まるかと思うくらいに。でも向こうは別に異変に気付いていない。
 その男(たぶん、男)は姿を見られたくないのか、フードを深くかぶり、表情は読めない。
 けれど、いつもと違う点なんて感じられない。

 晩ごはんだけ置いていくと、朝ごはんを入れていた器を持って、出て行ってしまった。