【長】黎明に輝く女王

 幸いにも、暴力が振るわれることもなく、餓死することもなく、生きている。
 この状況から考えて、あたしを殺そうとまでは思っていない事は伺える。ただの脅しか、変な嗜好の持ち主なのか。

「生きているだけありがたいけれど、余裕が出ると欲が生まれるのよね」

 そう、欲。最低限の安全が保障されていそうな今、次の欲求が生まれる。
 湯浴みしたいとか、新しい服に着替えたいとか。
 そして、逃げれるのではないかという余裕。飽くなき欲求は、あたしを限界まで動かすだろう。


「監視が入る時間帯は何となく分かって来た。朝と夜の2回、時間的に見て朝の監視の後逃げるのが時間的には余裕があるけど」

 明るい昼間となると、誰かに見つかるという可能性が高い。
 では、皆が寝静まる夜は? 朝までの何時間か、時間は少し短いだろう。けれど、安全と言えば、安全。

 しかし、この部屋には時計がない。正確な時間は分からない。感覚と勘だけが頼りになる。
 今の時間帯が丁度いい頃合いなのか、否なのか。見極めも肝心。

「どっちにしても、短い時間で遠くに逃げることが一番大事。やっぱり夜かしら」

 逃げるにしても、ルートは? 今現在居る場所の断定も出来ていないのに?

「だめだ、逃げるには情報が少なすぎる。……この部屋にそんな情報があるとも思えないけれど、調べてみるだけしらべてみようか」

 相手を上手く騙すことも大事。人と接する少ない時間。監視の時、食事の時、など僅かな時でも得られるものがあるはずだ。
 こうして、あたしは逃げるための情報収集を少しずつ行った。