【長】黎明に輝く女王

 外も暗いのか、あまり光は差し込んでこなかった。暗闇が強く、目を向けても顔がよく見えない。
 それでも必死に、現在の状況を確認しようと、瞳を大きく開いた。

「だれ?」

 何も答えない。誰か、来た事だけは確かである。男か、女か、そこまでは分からない。
 助けて、なんて言ってもこういうことをした奴だ。無理に決まっている。だから、なるべく相手を刺激しないよう、大人しくする。

 しばらくして、あたしと奴の間、真ん中ぐらいのところに何かが置かれた。

「食べろ」

 たった一言。高いというのか、低いというのかよくわからない中性的な声。
 自分の近くに置かれたそれはおそらく食べ物だろう。

「生き延びたいのなら、下手なことはするな。従順にしとけ」

 それだけ言うと、踵を返し、扉を閉めた。再び、部屋は沈黙を取り戻す。
 誰もいなくなった。あたしは置かれたそれを見る。ご飯だ。ただ、床に置かれている。
 それはまるで、家畜の餌のような仕打ち。

 いくら、あまり優遇されてない存在だったとはいえ、最低限の生活は許されていた。
 だから、今この状況に対して現実逃避しかできなかった。

 首に繋がれた鎖、床に置かれた粗末なご飯。それでも空腹は耐えられず、それを頂く。
 床に這いつくばって食べる姿は正しく、獣そのものだっただろう。それでも、本能には逆らえず、貪るようにそれを食べた。


「意外にも美味しいなんて」

 味付けもしっかりしている。こんな状況でなければ、もっと味わえたに違いない。
 だが考えても見ろ。たった一品だけとはいえ、手間のかかった品である。明らかに可笑しい。誰かが貴族が食べていたものの余りモノなのだろうか。


 そう貴族。こんなことするなんて、あたしを恨んでいる貴族の誰かに違いない。
 一般人じゃまず無理だし、しようとも思わないだろう。でも、捕まえておいてどうするつもり?
 美味しいご飯まで用意しているなんて。相手の考える事がよくわからない。