【長】黎明に輝く女王

 鋭い目つきで、あたしの方を睨んでくる。
 だめ、コイツの挑発に乗ってしまったら、むこうの思うつぼ。

「うー、やだー!! どうしてもというんなら、おねえちゃんといっしょにする!」
「一緒って、あたしこれから本宮の執務室に行くんだけど。リュカは離宮でしょ?」
「じゃあ本宮にいって、いっしょにする」

 なんていう、我儘!
 こっちのことも考えてよ! と言いたいけれど、5歳児にしてみれば、相手よりもまず自分で精いっぱいだろう。

「本宮はいけません。最近どうもきな臭い雰囲気がありますから」
「それってどういう……?」

 そう言われて瞬時に思い出したのは、昨夜の怪しい密会のこと。
 どういうことなのか、詳しく聞こうと思ったが、すでに姿が遠く離れて行っていた。


「安全な離宮でお過ごしください。あー、セリナ様はあの通りですから多分、大丈夫ですよ」

 ヴェイニに引っ張られるリュカ。そして、繰り広げられる会話。何とも不本意。
 あの通りって、どの通りよ!


 突き当りの角を曲がると、声は微かに聞こえるが、その姿はもう見えなくなっていた。
 騒がしい弟に、その家庭教師。

 けれど、引っかかるのは“きな臭い雰囲気”。
 一応、用心しておこう。そう思いながら、本宮の方に向かって歩いた。