【長】黎明に輝く女王

 なんてことない日常が戻ってきた。これまでの非日常が嘘のよう。
 そう。なんにも、変わっていないはず。それなのに、どうしてこうも、あたしの心は浮かないのだろう。

 イリヤと接する機会はやはり少なく、同じ場所で生活していながらすれ違っている。
 そのことがとても苦しかった。


「これってやっぱり」

 スキ、ってことなのかなぁ。初めてのことで、よく分からない。

 悩みながら歩いていても、周りがそれに気付くことはなかった。
 むしろ、あたしが周りに気付いていないのかもしれない。後ろから誰かに、声を掛けられても気付くのに時間がかかった。


「もう、おねえちゃんったら!」
「あ、あぁリュカね。どおしたの、こんなところで?」
「どうもしないよ! ぼくだって、ここに住んでいるんだから」

 確かにお互い離宮に暮らす身。出会うことなんて珍しくない。
 だけど、今まで避けてきた分、こうして出会ったことが珍しく思えた。油断していたかしら?

 でもリュカは落ちついている様子ではなく、むしろ慌ただしい。気付かない方がおかしい。

「何か、あるの? そわそわしているけれど」
「あ、うん……いや、なんでも! それより、おねえちゃんはどこいくの?」
「どこって本宮の方に行って執務をするだけだよ」

 離宮はプライベート空間。仕事をするのなら、やはりけじめをつけようと、あたしも本宮に出仕する。