行きはよいよい、帰りはこわい。

 垂らされたロープと上にあるバルコニー。こうして見ると以外に高い。それに、登ろうにもロープ一本だとさすがに無理がある。
 そのための訓練とかしているわけでもないし。

 どうしようか考えた結果、もう夜遅く、メイドたちも寝静まっているだろうと結論を出し、こっそりと表に回って堂々と帰ることにした。
 これからは、帰りのことも考えないと。


 あたしの読みは当たっていた。本宮と違い、離宮に過ごしているのは皇王の子どもであるあたしとリュカ、あとはイリヤぐらいで、就寝時間も早めに設定されている。
 もともと必要分の人数しか配置されていないため、メイドたちも仕事を終え、静かに自分の部屋へと戻ったようだ。

 あたしの部屋はイリヤと共同で使っているため、やはり足音を立てずにそっと自分の寝室に向かう。


 誰にもばれずに、ラッキーという軽い気持ちで帰ったのがいけなかったのだろうか。
 日が暮れる前にかけたはずの鍵はそのままにしておいたという事も忘れ、素直にあいたドアノブが可笑しいと気付かなかったのがいけなかったのだろうか。


「やあ、こんな遅くまでどこに行ってたの」
「いぎゃぁあぁ~~!」

 暗い部屋のなかで唯一の灯りを持っていたイリヤの顔だけが異様にはっきりと見えた。
 しかも光の具合のせいか、不気味な笑顔のせいか、それとも狂喜を孕んだ声のせいか分からないが、とても怖い。

 帰りは本当に怖い。